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アルテミス宇都宮クリニック






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産科麻酔分娩のご案内


当施設における産科麻酔分娩(硬膜外鎮痛)の概要


当院では出産される方が本来持っている自然な力で出産されるように極力医療的な介入はしないように心がけております。ただし、分娩に対する不安や恐怖感の強い方、痛みに対してストレスを強く感じる方では、ストレスや不安感から分娩の進行が遅れたり、母体や胎児に悪影響を及ぼすことがあります。分娩経過時の痛みを和らげることで、よりよい分娩、安全な分娩ができるケースもあります。そこで、当院では硬膜外麻酔という方法による産科麻酔分娩をおこなっております。


当院における産科麻酔分娩の実績

2023年度は、分娩総数571件で、自然分娩408件(71.5%)、吸引分娩70件(12.3%)、鉗子分娩3件(0.5%)、予定帝王切開47件・緊急帝王切開43件(C/S率 15.8%)でした。
アルテミス宇都宮クリニックでは2006年の開院当初より、硬膜外麻酔を用いた産科麻酔分娩(無痛分娩)を導入しております。
産科麻酔分娩は280件(全体の49.0%)、実施致しました。
下記グラフは2010年からの分娩数と産科麻酔分娩の年次変化です。



産科麻酔分娩を行った場合の最終分娩方法

2023年度に産科麻酔分娩を行った方の10.0%は帝王切開に切り替えています。 経腟分娩の場合でも吸引分娩は18.9%でした。



産科麻酔分娩を行う体制


1.インフォームドコンセントの取得

産科医より硬膜外鎮痛の手順・利点・副作用・合併症などを説明、 産科主治医より誘発分娩と麻酔分娩の同意書を渡し、入院時に持参してもらう。

2.硬膜外鎮痛を担当する医師

齋藤和彦 麻酔科医(日本麻酔科学会専門医・日本ペインクリニック学会専門医)
木内敦夫 院長 (産婦人科専門医)

3.産科麻酔分娩を施行する場所

原則としてLDR室または手術室、回復室
・母体に自動血圧計装置とSPO2、ETCO2の連続モニタリングができる
・急変時に対応する設備がある(酸素供給、口腔内吸引装置、救急カート)
・胎児心拍数陣痛図の装着が可能で、スタッフ待機室でもモニターの監視ができる
・保温された細胞外液、エフェドリン希釈液、リトドリン希釈液の準備ができている



●産科麻酔分娩の適応

@産科的理由

・痛みや子宮収縮による心血管系への負担が好ましくない方
・分娩中に痛みで全身が硬直したり、興奮状態となってしまう方
・妊娠高血圧症候群など、子宮胎盤血流量が低下している方
・分娩経過が長引き、なかなか進まない方

A上記以外

・陣痛がご本人にとって耐え難く痛みの緩和を希望される方


●産科麻酔分娩のメリット


・麻酔薬により、陣痛が和らぐことで、母体の疲労・苦痛、不安感の軽減を期待できます。

・麻酔が産道にも効くため、産道の緊張が解け、分娩がスムースに進むことがあります。

・強い痛みで全身が緊張したり、興奮状態になると、呼吸が乱れやすく、お母さんの体の中で「カテコラミン」という血管を細くする物質がふえてしまうために、赤ちゃんへの血流が少なくなることがあります。麻酔により、交感神経の緊張が緩和することで、子宮胎盤血流量の増加が期待できます。

・痛みによる苦痛で、病状の悪化が予測される妊娠高血圧症候群、心臓疾患、 精神疾患などの合併症がある産婦さんは、医学的適応で産科麻酔分娩を行う場合もあります。


●産科麻酔分娩のデメリット


・陣痛による子宮の痛みを感じる脊髄の神経領域と、子宮の収縮を起こす神経領域が近いため、麻酔により子宮の収縮が弱くなったり(微弱陣痛)、「怒責(いきみ)」が感じられなかったりということがしばしばあります。「怒責(いきみ)」の感じがわからなくなると、赤ちゃんを押し出せなくなるため、普通分娩とくらべて、吸引分娩・鉗子分娩 、腹部圧迫(クリステレル圧出法)の割合が高くなります。

・赤ちゃんの骨盤内での回り方が悪くなる(回旋異常)可能性が高まるといわれています。これも、鉗子・吸引分娩の割合が高くなる原因になります。

・ 麻酔の効果には、個人差があります。


●麻酔科的合併症

@硬膜穿孔・頭痛

硬膜は薄い膜なので硬膜外チューブ挿入の際に、針やチューブが硬膜を貫いてしまうことがあります。針穴から脊髄液が漏れるため、頭痛や首の痛み、吐き気出たりします。特に起き上がった時に症状が強くなり、横になると軽減します。
硬膜外カテーテルの先端が硬膜を通じてさらに奥にある、くも膜下腔に入り、そこに麻酔薬が入ることで、麻酔が上半身まで広がり呼吸が苦しくなったり、一時的に意識が遠のいたりする場合があります。

A局所麻酔中毒

血管内誤注入、過量投与により生じます。硬膜外膣には母体の血液は流れてません。チュ−ブの先端が血管の中に迷入すると、薬を入れたときに母体の血液中に麻酔薬が直接流入し、急激に濃度が上昇します。この場合、耳鳴りやめまい、金属を口にしたような変な味覚を感じることがあり、意識消失・痙攣を起こしたりすることがあります。十分な観察とモニタリングをしながら、カテーテルからの吸引テスト・麻酔薬投与前のテストドース、慎重な麻酔薬投与量、少量分割投与等を行いながら、麻酔レベルチェックを行います。

B硬膜外血腫

チューブを入れる時に、先端が血管を擦ると内出血が起こり、血腫を作ることがあります。神経を圧迫し背中の痛み、下半身の感覚や足の動きの麻痺が起こることがあります。

C感染

チューブ挿入の際には、十分な消毒を行いますが、稀ではありますが、挿入したカテーテルが感染源となり、膿瘍や髄膜炎を発症することがあります。

D神経障害

留置したチューブが神経の一部にあたり、分娩後にしびれ感や痛みなどが出現する場合があります。一時的に症状が残ることがありますが、ほとんどの場合が一過性で、2〜3ヶ月で治ります。

E血圧低下

麻酔は、血管を広げる作用をもっているので、血圧が下がりやすくなります。

●計画分娩・誘発促進について


・ 陣痛を強めるために、オキシトシンという子宮収縮薬の点滴を行います。この薬は、もともと人の体内にあるホルモンの一種です。子宮の筋肉を収縮させて陣痛を起こしやすくします。少しの量から始めて、徐々に増やしていきます。

・子宮口の熟化によっては、ラミナリアやメトロといった子宮口を開大させる器具や、子宮頚管熟化剤を使用することもあります。

・ まれに、子宮収縮が強くなりすぎて(過強陣痛)、子宮や産道が裂けたり(子宮破裂・頸管裂傷)、赤ちゃんが低酸素状態になることがあります。そのため、分娩進行中は赤ちゃんの心音や子宮収縮の状態を注意深く観察し、点滴の速度(量)を調節し、安全に十分配慮します。

・計画・分娩の場合、一日では有効な陣痛が得られずに、誘発分娩が不成功になることがあります。その場合は、再度翌日の分娩誘発となります。
※硬膜外麻酔のカテーテルは、固定・留置した状態となります。

・ 分娩進行がみられない場合や、胎児の状態により、緊急帝王切開になることもあります。


●産科麻酔分娩の外来健診、入院までの流れ


@当院は「誘発・計画麻酔分娩」「陣痛発生後麻酔分娩」「耐えられなかったら麻酔分娩」の3種類からお選びいただけます。

 ※「誘発・計画麻酔分娩」を選択されても、入院予定の前に陣痛が始まってしまうことがあります。進行が早い場合、麻酔が間に合わないことがありますのでご理解下さい。

 ※麻酔科医師が不在の場合は、産婦人科医師が麻酔を挿入する場合がございます。麻酔科医師が24時間常駐しているわけではありませんのでご了承下さい。また、夜間など対応はできませんのでご了承下さい。

A産科麻酔分娩希望される方には34週〜35週の妊婦検診時に、産科麻酔分娩及び誘発・計画分娩の説明をし、同意書をお渡ししています。
※同意書は、サイン捺印したものを入院時にスタッフに提出して下さい。

B希望している産科麻酔分娩をうけられるように、また適正な誘発・計画の時期を判断するため、外来診察にて子宮頚管の熟化(子宮口の開き・柔らかさ)などを評価しながら、入院の日程を決定します。

C 入院日及び誘発・計画分娩が決定したら、外来で入院の案内を行います。

D 膜外麻酔にてカテーテル挿入後は、入浴は控えていただきますので、事前に入浴を済ませてくることをお勧めします。

※産科麻酔分娩について、合併症等、当院での安全管理についてご理解・承諾を得られない場合は、産科麻酔分娩ができないことがあります。


●入院後〜産科麻酔(硬膜外麻酔)、分娩後について

@あらかじめ静脈点滴を行い、水分の補充、血管の確保を行います。

A赤ちゃんが元気かどうか、陣痛の状況を確認するモニターを装着します。

B問題がなければ、陣痛の促進剤を開始します。促進剤は極微量からスタートし、その後、痛みを和らげる麻酔をおこなうため、硬膜外カテーテルを挿入する準備をします。

C安全のため、心拍・血圧等の観察を行いながら、カテーテルを入れる間は、妊婦さんは背中を丸めた姿勢になり、背骨の間を広くして針を入れやすい体勢にしていただきます。

Dカテーテルを入れる際には、脊髄の近くの感染予防のため、手術の時の麻酔と同様に妊婦さんの背中を消毒します。背中の皮膚に局所の痛み止めの注射をしてから、硬膜外麻酔用の針を硬膜外腔まですすめ、針を通して硬膜外カテーテルを挿入し留置します。

Eカテーテルは、細く(1mm未満)柔らかいチューブですので、違和感はありません。刺入部をテープで貼り固定、余ったチューブを肩まで固定し、先端部を肩口から出します。

Fカテーテルから、麻酔薬を注入します。30分くらいで下肢が温かくなると共に、痛みが和らいできます。ただし、計画分娩の方は、促進剤で痛みを感じ始める前に、カテーテルが挿入になる場合もあるので、始めは効果がわかりづらいこともあります。また、初産の方は、通常の陣痛の経験が無いため、痛みの軽減や麻酔による効果がわかりづらいこともあります。その後は持続注入ポンプを用いて、硬膜外カテーテルから麻酔薬を少しずつ注入し、痛みの緩和を持続・維持していきます。

G痛みが強くなるようでしたら、ポンプのボタンをご自身で押して下さい。麻酔薬が追加注入され、痛みが和らぎます。ボタンは過剰に投与されないよう安全にセットされています。ボタンを押しても、痛みが緩和されないような時は、遠慮なくスタッフに伝えて下さい。分娩経過や進行状況をみながら、麻酔薬を追加します。

H 麻酔開始後は、基本的に室内・ベット上で過ごします。動くことはできますが、下半身に軽く麻酔がかかった状態であるため、安全のため歩行時はスタッフに声をかけて下さい。トイレも麻酔の影響により、尿意を感じにくくなるため、導尿や持続的にカテーテルを挿入・留置を行う場合もあります。

I 分娩の最終段階で、麻酔の影響で“いきみ”が上手くできない場合は、クリステレル胎児圧出法や吸引分娩が必要になることがあります。

J出産後、分娩に関する処置が終わるまでは、硬膜外カテーテルは留置した状態になります。分娩後の状況、経過をみながら硬膜外カテーテルを抜去します。下半身に麻酔の影響が残っていることもありますの。安全のため分娩後のトイレや歩行は、スタッフの指示に従ってください。


★注意事項★

・誘発計画分娩を選択されても、入院予定の前に自然に陣痛が始まってしまうこともあります。
自然陣痛が来た場合、分娩の進行が極端に早く、無理に慌てて麻酔をするよりも、自然の経過で分娩した方が良い場合もあります。そのような進行の早い分娩の場合、麻酔は間に合わないこともあることを、ご理解ください。


無痛分娩について、もっと詳しく知りたい方は

無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)のホームページ

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